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【ゲームは麻薬】中国国営メディアによるテンセント名指し批判の株価への影響

中国の国営メディア新華社通信は、8月3日の特集記事においてオンラインゲームを「精神鸦片(精神アヘン)」に例えて見出しに、本文では特定の会社のゲームを名指しで論評しました。出所が中国国営メディアということもあり、世界で大きな話題になりました。

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この記事では以下の4部構成で進めていきます。

  1. 批判の解説
  2. テンセントの規制
  3. 今後の業績や株価へのダメージ
  4. ゲームが脳に与える影響<研究論文>

読者の理解を深めていく目的で順番に書いていきます。

ではいきます。

中国国営メディアの批判

まず、上記でも簡単に触れましたが、新華社通信はゲームを標的にし、ゲームを麻薬に例え避難しました。以下がその記事です。

結論は、未成年をオンラインゲーム中毒から守るといった内容でした。本人確認の際、親のIDを不正に利用して課金する子供を規制し、プレイ時間に制限を設けるなどの管理を強化する必要があるということです。また、法規制がネットの発展に追いついておらず、当局の監視を回避している例が多発していることに対しても懸念を示しています。

さらに具体的な内容として、未成年のネット中毒が蔓延しているため、未成年の健全な成長に影響を及ぼしているということが記載されています。そして、オンラインゲームへの過剰投資を問題視し、近視眼化を懸念しています(余談ですが、たしかに中国の卒業写真を見ると男性のメガネ率は日本に比べてとても高い印象です)。

今回のゲーム業界への否定的な論調は、先日の教育業界への規制に関連したものです。

【教育規制】香港ショック到来か 全世界への影響度を考える(7月28日更新) 香港で金融ショックと呼べるレベルの現象が起きています。立場によって楽観したり悲観したりあるため、今回は投資家としてどのように対応するか...

テンセントの王者栄耀を名指し

また、記事ではテンセントの『王者栄耀』の名前を挙げており、世界中のメディアはテンセントを非難していると捉えていました。

王者栄耀とは、テンセントが主力とするソーシャルゲームタイトルで、世界一のソシャゲ売上を誇ります。ジャンルはMOBAという5対5のチーム戦スタイルです。ゲームプレイは基本的には中国のみでプレイ可能です。2020にはついに1日のアクティブユーザー数(DAU)が1億人を超え、世界最強のゲームとして記録を更新しました。中国人で知らない人はいません。

僕も熱心なユーザーの一人で、このゲームシステムの素晴らしさにはいつも驚かされます。先日の世界大会では、ある配信プラットフォームでのリアルタイム視聴者数が1千万人を超えていました。

ちなみにこれは決勝ではありません。決勝ではとんでもない視聴者数になっていました。

決勝戦の同時視聴者数

  • ゲーム内:1,400万人
  • 斗鱼:3,100万人
  • 虎牙:2,800万人
  • 微信:320万人
  • 哔哩哔哩:4,000万人
  • 合計:1億1,620万人

※当ブログ調べ

凄いですよね!日本の人口を超えています。これだけの人たちが同時に視聴しているのです。

これほどまでに多くの人を熱狂させる理由には、MOBAというジャンルの中毒性だけでなく、キャラクター性や世界観、ゲーム内システムの工夫も大きく関係しています。

ゲームを麻薬に例えた根拠

今回の国営メディアの論評の中では「电子毒品(デジタル麻薬)」といった言葉も登場しています。学生(未成年)の中に、ゲームがどのくらいの影響を与えているのかを調査した内容をミクロとマクロの2つの観点から添えています。

まずはミクロな調査です。四川省瀘州市(ろしゅうし)で、2,154名の学生を対象にアンケート調査を行ったところ、1,929の回答を得られました。その結果が以下です。

  • 2~3日に1回オンラインゲームで遊ぶ…26.23%
  • ほぼ毎日オンラインゲームで遊ぶ…11.66%
  • 1日1~2時間ゲームで遊ぶ(毎日遊ぶ)…53.91%
  • 1日5時間以上ゲームをする…2.28%
  • 調査対象学生のうち47.59%が『王者栄耀』で頻繁に遊んでいる

調査対象の子供たちは、ほぼ全員ゲームはしており、半数以上が毎日ゲームを1~2時間しているという結果がでました。

次にマクロな調査を見てみましょう。

共産主義青年団中央委員会の青年権利保護部門と中国インターネットネットワーク情報センターが合同で行った調査です。文書タイトルは「2020年の中国における未成年者のインターネット利用に関する調査報告書」です。

この研究結果が以下です。

  • 未成年のネットユーザーは1億8,300万人に達し、未成年の94.9%がネットを利用している
  • 未成年のネットユーザーの62.5%がオンラインでゲームを頻繁にプレイする。
  • モバイルゲームユーザーは13.2%が1日2時間以上モバイルゲームで遊んでおり、2019年(前年)の12.5%から増加している。

ここでもうわかりますね、とにかく「ゲームやりすぎ」と政府は言いたいのでしょう。そして、その背景にある教育について記事では触れられていくことになります。

とある中学生がオンラインゲームに夢中になりすぎて学業成績が急落し、数学のテストで30点しか取れなかったことや、お金を節約するために、親が渡したお金で朝食を買わず密かに携帯を購入した例、親に何も伝えず2階のベランダから飛び降りて遊ぶために一晩帰らないことなどを挙げています。

また、インターネット法則研究センターの所長リン・ウェイ氏が時間管理に問題があると指摘している内容も掲載されています。あとは、ゲームを暴力事件やうつ病、体力の低下と結びつけて論説しています。

以上の内容から、中国政府がどうにかして未成年を学業に集中させたいということが伝わってきますね。

では、この批判は実際にどのような影響を与えたか次に解説します。

テンセントが未成年規制を発表

記事に直ぐに反応したのはテンセントでした。『王者栄耀』が名指しされたことで、直ぐに以下の動画が公開されました。

この動画は、テンポも良く内容にギャップを感じますよね。動画ではテンセントの一部ゲームに規制をかけることが伝えられています。その内容が以下の4つです。

  1. 未成年のプレイ時間制限を強化
  2. 12歳未満の未成年者のプレイ禁止
  3. 個人情報の詐欺に対応
  4. 不正アカウントの取締り

これら4つについて順番に解説していきますね。

未成年のプレイ時間制限を強化

まず、未成年者のオンライン時間を厳しく制限します。平日を1.5時間から1時間に短縮し、法定休日を3時間から2時間に短縮する(尚、冬休み、夏休み、週末は平日とみなし、1時間の制限とする)ということです。

12歳未満の未成年者のプレイ禁止

次に、12歳未満の小学生の対象ゲームへの一切の参加を禁じます。

個人情報詐欺に対応

未成年者が大人のふりをしてゲームをしていたりするため、終日検査によって疑わしいアカウントをすべて再認証します。子供が親の身分証を使って本人認証したり、ネットで他人の個人情報を使い身分を偽って本人認証する例が少なくないため、それらに対処します。

不正アカウントの取締り

上記不正対策に加え、第三者のプラットフォームを使ってゲームにログインし、成人アカウントを売買するユーザーを取り締まります。実際にゲーム内チャットでチャットアプリに誘導し、不正アカウントを売買するなど、悪質な行為が存在します。それらに対処するとのことです。

この発表は世界で大きな話題となりました。が、この決定がすぐ出されたところを見ると、テンセントは事前に対策を考えていたように感じます。いちいち役員会を開いてその日に決定した内容とは思えないほど詳細に決められていたわけですから。この規制は、一見ショッキングですが、果たしてどの程度の影響が出るのでしょうか。次に解説します。

今後の業績や株価への影響

国営メディアから批判記事が出されてから、テンセントによる規制発表までの間で、香港の株式市場は乱高下しました。案の定、香港のゲーム関連株が大きく下落しました。テンセントは一時-10%、ネットイースは-12%でした。ビリビリも大きく下落しているのを確認しました。

では、このまま今回の規制が業績悪化に繋がり(あるいは懸念され)株価が下落してしまうのでしょうか?実は僕はそうは思いません。

規制の影響が大きくない根拠

結論からいえば何の心配もありません。なぜならテンセントはこれまでも何度もこういうことはありましたし、その後、それ以上に株価は上昇してきました。

また、ゲーム業界はインターネットの発展と共に大きく成長してきました。この20年間で規制に対する耐性はつけています。中国の教育分野のように一撃で殺せるほどマーケットは小さくありません。テンセントはアジア企業でNo.1の時価総額の企業です。

しかも、今回のゲーム規制は初めてのことではなく、既存の規制を強化したに過ぎないことを忘れてはいけません。遡ればテンセントが政府の意向に従って規制を始めたのは4年前の2017年からです。

2017年にも同じく中国国営メディアの人民日報が「王者栄耀は大衆を楽しませるか人生を陥れるか」という見出しで、今回のように理由や事例を挙げながら論評していました。その時は、王者栄耀の中毒者が増えていることから、ネット上では「王者農薬」という言葉がネットユーザー間で度々使われていたほどです。当時も株価が一時下落しましたが、結果戻りました

そして、政府が懸念を示す度に、テンセントは未成年者を保護するための処置を施してきました。例えば、2018年の規制のアップグレードでは、未成年者に対し、ログイン時の顔認証を必須にしました(認証失敗したらログインできなくなる)。未成年者の時間制限も当時からありました(12歳未満は1日1時間制限かつ毎日21:00~翌日8:00は禁止)。

今では本人認証を完了させている成人の僕でもプレイ時間が長すぎるとプレイを一時的に制限されます。

これは実際の王者栄耀のゲーム画面です。

また、数時間プレイしても目を大事にしてください、とゲーム画面で注意喚起されます。

親としては、ゲームが規制されることで子供が勉強に集中できるので、心配事が緩和されますし、投資家としても未成年の平均課金額が低いことから大きな問題にはしないでしょう(特に香港のアナリストや機関投資家は)。

今回も以前のように株価は一時下落しましたが、その日の引けにかけてゲーム株は急速に下げ幅を縮小しました。翌日は上昇しています。新華社通信が特集記事を削除したことも大きいですが、それ以前に短期筋のただのパニック売りだったように感じます。

興味深いデータがあるので、ここで紹介します。中国の2020年のゲーム利用者の年齢とその比率は以下の通りです。

  • 19~22歳…39.7%
  • 18歳以下…9%

今回のテンセントの規制によって12歳未満がプレイできなくなるという話ですが、そうなるとかなり小さい割合です。

ユーザー1桁%を失うことは、考え方によれば大きいものですが、それは極めて短期的な視点であると僕は考えます。彼らは成人したらさらに大きな課金をするでしょうし、王者栄耀は1日のアクティブユーザーが1億人です。世界中のどのゲームも超えられない大きな壁を作った世界最強のゲームです。つまり、業績に対する長期的な影響は軽微といえます。心配ないでしょう。

ただ、今回の件とは別に、規制や訴訟などでやや懸念が多いというのも事実です。今の香港株やNYに上場する中国コンセプト株は複合的な要因で弱気です。短期で見るか長期で見るかで評価が変わってきます。

ポジティブな見方をすれば、政府は教育に影響する国内(内需)を抑制し、海外市場(外需)のプロモーションを黙認する可能性があります(ただし、資本関係の監視が付きまといます)。その場合、世界市場でシェア獲得を狙うテンセントにとっては、好機となります。

ソーシャルゲームが脳へ与える影響に関する研究論文

今回の件で、ゲームが麻薬のように中毒性が高いと疑問に思った人もいるかと思います。僕は以前からゲームが脳に与える研究論文を読んでいたので、1つ紹介します。

ビデオゲーム中毒は本当なのか』というタイトルで出されたこの論文があります。そこに書かれている内容を一部抜粋します。

  • 依存症(中毒)は脳の報酬系が大きく関係している
  • 伝達物質であるドーパミンの放出がトリガーとなりニューロンや前頭前野に影響を与える
  • ドーパミンは扁桃体などの他の脳機能にも変化を与える
  • ゲームで与えられた報酬や音、色が条件付けとなり快感を覚えていく。
  • 開発者は難易度を下げることで依存性を上げている
  • グラフィックの進化も強力な依存性を高める要素

ちょっと専門用語などもあり理解しづらかったかもしれないので、ここからは具体的にわかりやすく説明していきます。

まず、昔は依存症といったらアルコール、タバコ、薬物といった「物質依存症」でした。それがギャンブルの登場で「行動依存症」という概念ができました。ゲームはどちらかというと後者です。

ゲームでは「古典的条件づけ」という概念も加わってくるといいます。古典的条件づけとは、犬に餌を与える前にベルの音を鳴らすことを繰り返すことで、学習された犬はベルの音を聞くだけで唾液を出してしまうという研究に基づいて提唱された概念です。よく「パブロフの犬」とも言われます。

ゲームの場合は、ゲームを起動して色を見て音を聞くだけで無意識下で快感を得てしまうという現象です。

他にも様々な脳の報酬系を刺激する要素があります。

  • キャンペーンでお宝をゲットした瞬間
  • ガチャでレアキャラクターを引いた瞬間
  • 敵を倒した瞬間
  • ゲームの外観、BGM、勝利した瞬間のSE

プレイヤーはこれらから快感を無意識に得ています。ドーパミンを放出し、扁桃体が反応します。そして、これらが短い間隔で沢山繰り返されることで依存性を高めていきます。

また、プレイヤーが行動して、報酬という結果を受け取るまでの時間の短さも関係しています。行動して結果が出るのが一瞬という意味ではガチャはその典型で快感を得やすいですし、開発者が難易度を下げて沢山のアイテムを何度も与えていくシステムも脳の学習といえるでしょう。

このようなメカニズムで脳が快感を学習し、ゲームをプレイしていない時でも思い出してプレイしたくなったりします。脳は非常に単純なんです。これが酷い状態になったのが依存症(中毒)です。これがゲームが薬物に例えられる理由です。

問題は依存症の線引きです。どこからが依存症なのかはハッキリできないので、課題となっています。実はソーシャルゲームに関する研究論文はそれほど多くないのです。まだまだ定量的な研究結果が必要ということを表しています。

とはいえ、ゲームの発展は止まらないでしょう。eスポーツ市場もどんどん拡大していっています。その発展の過程では、健全化は必要なことです。僕たちが依存や目の健康に気をつけて、その発展の波に投資家として乗れるよう、引き続き情報を追っていきます。