マクロ経済

保険会社の運用の変化とマイナス金利が与える影響について

日本の保険業界では、長らく低金利下の欧州型を手本とした議論が重ねられてきた。

つい先日の1月29日に日銀によるマイナス金利導入が決定されたが、今回は、金利低下がもたらす保険セクターへの影響をまとめてみる。

【臨時記事】 日銀がマイナス金利導入を決定!伝統的金融緩和の先にある日本経済とは https://twitter.com/Bank_of_Japan_j/status/692915273171636225 ...

低金利下(及びマイナス金利下)における保険会社の運用の変化

ネガティブ要素

  • 予定利率を上回る運用はデュレーションのミスマッチにより実現が難しくなる。
  • 貯蓄性商品の魅力が低下。

これまで

資産運用PF(ポートフォリオ)に占める、ソブリン格付けに制約されたJGBの割合は20%超を維持してきた。欧州(特にスペインやイタリアなど)の財政難国の債権は持っているだけで高リスクとされたのでJGB20%以上を維持してきたとされる。同時に、2010年以降、外債比率は増加傾向にある。他方で、株式はリーマン後から増えず。

今後の展開

国内債権のデュレーションは長期化することで利回りを稼げるが、一方で金利リスクの増大に繋がる可能性がある。流動性で稼ぎやすい外債のリスクテイク志向は今後も高まると思われる。

大手生保のオルタナティブ等の高リスク資産のアロケーションも引き上げられるだろうが、オルタナティブ投資に限り微増、PF全体に占める割合は小さいと考えられる。

欧州型を取り入れるのなら、後で述べる『ソルベンシーⅡ』から懸念される資本賦課と価格変動リスクを避け、株式・不動産のエクスポージャーは抑制的となるだろう。

ただし、マイナス金利の与える影響は大きく、国内債権はデュレーションの更なる長期化は当然として、高リスク資産・外債のアロケーションの変更が呼び起こされる可能性大。10年物だけでなく、短期債の動向にも筆者は観測している。欧州がマイナス金利を導入してから欧州の保険会社は、日本の国債のウェイトを増やす動きもあったかと思う。今回、日銀がこのような決定を下したが、海外の金融機関の反応はどうだろうか。


金融規制

保険会社の運用部門で大きな焦点となる金融規制がソルベンシーⅡである。最大の変化は、「保有資産に対しリスクベースの資本を賦課」といった点である。完全適用は2032年。今後は透明性の向上から、エンベディット・バリューが使われなくなる可能性もある。

デュレーションの長い社債に最も有利な改訂が行われ、A以上の高格付け長期債へのキャピタルチャージは抑制的になる。異なる資産に異なる資産賦課ということで、キャピタルチャージを考慮した投資が重要となってくるだろう。補足までに、リマーマンでインパクトのあった「Junior A 10-year(ジュニア債10年物)」は、資本賦課が100%となっている。


伝統的生保

・デュレーション長期化、外債ウェイト増加、予定利率の低下で、利差損益が改善傾向(14年に大手生保逆ザヤ解消。ただし日生は三井生命買収で逆ザヤ解消や持続的な順ザヤは難易度高い)。

・リスクアセットレシオ(リスク資産/修正自己資本比率)は、国内株式の削減、自己資本の積み上げによる分母増大で低下傾向。日生やや遅れ。

・保険セクターの運用資産PF全体に対する株式投資、不動産投資の割合は増加せず。

・債権投資のクレジットリスク増大


参考文献

・ EIOPA – QIS5 Technical Specifications
・ Appendix 1 Calibration of the adaptations of the basic risk free rate curve for Solvency II
・ AXA Annual and Interim Reports
・ Prudential Financial, Inc. Annual Report for Fiscal Year Ended March 31,2015


付録

マイナス金利(付利の引き下げ)の経済効果を銀行を中心に大きく3つに分けて考えてみる。

【臨時記事】 日銀がマイナス金利導入を決定!伝統的金融緩和の先にある日本経済とは https://twitter.com/Bank_of_Japan_j/status/692915273171636225 ...

波及効果と転換点

  1. マイナス金利導入→金融機関のJGB(日本国債)離れ→金融機関の貸し出し増加→企業設備投資増加→企業業績向上→賃金上昇→経済成長と共に物価目標達成
  2. マイナス金利導入→金融機関のJGB離れ→金融機関貸し出し増加→外的(政治的・経済的)要因により、企業業績振るわず→経済伸び悩み
  3. マイナス金利導入→金融機関のJGB離れ→外債投資のウェイト増加→企業への貸し出し額伸び悩み→経済のシュリンク

解説

①は、日銀(の一部)が切望するシナリオの一つ。それも増税された場合を考えてのもので、物価目標2%のために、まずは名目ベースで賃金を上昇させなければならないとの考えもあるだろう。銀行等の貸し出しが増加することでトリクルダウンを発生させる狙い。ただし銀行も簡単には審査を緩められないし、地銀に関しては統合が進むとかんがえられる。

②は、地政学リスク(テロや政治問題)、エネルギー価格、原材料等の変動による企業の業績低迷から成る経済停滞。

③は、金融機関の貸し出しが伸び悩む場合における、景気循環の悪化(回復→好況への転換ができない)状態。

②、③の場合、物価上昇に賃金の上昇がついていけない状況となり、完全にスタグフレーション入りとなる。現在でも、大企業の食品が多く出回る世の中で、大手食品メ-カーの価格が値上がりし、大企業以外の労働者へ対する賃金が増加しないことがミスマッチを生みはじめている。